歴史とは何か? 〜E.H.カーに学ぶ、過去と現在の対話〜
歴史とは過去との対話である
皆さん、「歴史とは何か?」と聞かれて、すぐに説明できるでしょうか?「歴史は過去に起こったこと」と思うかもしれませんが、少しだけ違うようです。『歴史とは何か』の著者、E.H.カー(エドワード・ハレット・カー)は、「歴史の事実は単なる出来事ではなく、歴史家が選び、解釈したもの」と述べています。つまり、歴史を記すのは人間であり、その解釈には必ず主観が入り込むということです。
たとえば、日本への原爆投下の歴史は、日本から見れば悲惨なものとなり、アメリカから見ると戦争を早期に終結させ、双方の死者数を減らした出来事として語られます。同じ歴史的事実でも、視点によって解釈が異なるのです。ここでは、1961年に発刊されたE.H.カーの『歴史とは何か』(What is History?)を参照に、歴史に関する基本的な問いに触れていきます。
1. E.H.カーと『歴史とは何か』の背景
E.H.カー(1892年生〜1982年没)は、イギリスの歴史家・外交官・ジャーナリストであり、特に20世紀における国際関係や歴史哲学の分野で知られています。ケンブリッジ大学で教育を受けたカーは、第一次世界大戦後にイギリス外務省に入り、外交官として活躍しました。
『歴史とは何か』は、1961年、69歳のカーがケンブリッジ大学で行った講義をもとに執筆されました。第二次世界大戦後の冷戦期、国際政治が緊張する中で、歴史をただの出来事の集まりではなく、社会や人間の営みの理解として捉えることの重要性を説いたのです。
2. 歴史の主観性と客観性
「歴史の事実」という言葉を耳にしますが、果たしてそれは本当に「事実」なのでしょうか?実際には、歴史の「事実」はただ存在するものではなく、歴史家が選び、解釈して初めて意味を持ちます。
同じ出来事でも、勝者の視点から見た歴史と、敗者の視点から見た歴史では意味が大きく異なります。アメリカ独立戦争をアメリカの視点から見れば「独立と自由の戦い」ですが、イギリス側から見ると「植民地の反乱」として捉えられます。どちらも事実に基づいていますが、視点の違いが歴史の意味を変えるのです。
このように、歴史には常に「主観性」が含まれ、事実に色づけをします。もちろん、単なる主観だけではなく、信頼性や根拠に基づいた選択がなされていることも理解することが、歴史をより多面的に捉えるために重要です。
3. 歴史家の役割
では、歴史家の役割とは何でしょうか?歴史家は過去と現在を繋ぐ「橋渡し役」です。彼らは、出来事を単に記録するだけでなく、時代背景を深く理解し、何が重要でどのように影響を与えたのかを選び取ります。
歴史家は「過去と対話」をします。過去の出来事が何を意味し、私たちに何を教えてくれるのかを解き明かしていくのです。たとえば、産業革命を研究する歴史家は、技術革新そのものだけでなく、それが社会や人々に与えた影響や現代社会へのつながりについても探ります。歴史家の視点によって、過去は「ただの過去」ではなく「現代の教訓」として生かされていくのです。
4. 「歴史とは過去と現在の対話である」
「歴史とは過去と現在の対話である」という言葉が示すように、歴史をただ記録された事実の集積として捉えるのではなく、現代の視点を交えながら読み解くことで、歴史から新しい意味を見出すことができます。
過去の戦争や経済危機を研究することは、現代の社会問題と直接関わることがあります。1930年代の世界恐慌による経済不安や社会不安は、現代の経済危機にも共通する面があるでしょう。それを理解することで、私たちは現在の問題に対してより良い対応を考えられるようになるかもしれません。過去と現在を対話させることで、歴史は現代にも生きた知恵を授けてくれるのです。
まとめ
歴史は単なる過去の出来事の記録ではないということがわかりますね。歴史を学ぶ本当の意義は、過去の出来事そのものを知ることではなく、その出来事を通じて現在の自分たちの姿を見つめ直し、未来に向けた洞察を得ることです。
ありがとうございました!